ベトナム進出を検討し始めた企業が、まず最初に動くのはどこでしょうか。
多くの場合、進出コンサルティング会社や市場調査会社への相談です。自社の商材にベトナム市場でどれだけの可能性があるのか、まずは専門家に聞いてみよう、という判断は自然なものです。
ただ、私はこの順番に一つ落とし穴があると考えています。
レポートを読んで判断するより先に、現地に来て同業者10社に直接話を聞く。これが進出判断の精度を上げるうえで、最も費用対効果の高い方法です。
今回は、なぜ市場調査より先に「10社アポ」なのか、その理由を現地の視点から整理します。
目次
Toggle1. 数字だけを見れば、ベトナムは絶好調に見える
まず前提として、ベトナムのマクロ指標は本当に強いです。2025年の実質GDP成長率は8.02%で、2011年から2025年の15年間では2022年に次ぐ高い水準でした。1人当たりGDPも5,026ドルと、初めて5,000ドルを上回っています。さらに2026年については、国会が10%以上という成長目標を採択しています。
日本の成長率と並べて見れば、これは別世界の数字です。市場としての将来性という意味では、疑う余地はありません。
しかし、ベトナムで実際に事業をしていると、数字ほどの勢いを常に感じるわけではありません。業種によっては受注が止まる時期がありますし、支払いが遅れる、決裁が下りない、人が動かない、といった停滞感は日常的にあります。
マクロの成長率と、自社の商材が売れるかどうかは別の話だということです。この差は、資料を読むだけでは埋まりません。
2. 進出コンサルの情報が「良い話」に偏る構造的な理由
ここは正直に書きます。
進出支援を業務としている会社は、企業が実際に進出しなければ収益になりません。法人設立、ライセンス取得、会計、労務、それらの業務はすべて「進出する」という意思決定の後に発生します。
つまり、進出を後押しする方向にインセンティブが働く構造になっています。個々の担当者の誠実さとは別で、ビジネスモデル上の話です。
たとえば食品系の商材であれば、日系スーパーや大手コンビニの棚を案内され、都心の活気ある売り場を見せられます。若い購買層、急速に増える中間層、伸びる小売市場。どれも事実です。
ただ、そこで見えていないものがあります。
- その棚に商品を置くための条件と実際の回転率
- 同じことを考えて撤退していった日系企業の数
- 価格帯を現地水準に合わせたときに残る利益
- ローカル競合と輸入品の価格差
見せられた「良い面」だけで意思決定をしてしまうと、進出した後に想定と現実の差に直面することになります。市場調査会社のレポート自体は客観的であっても、使い方を間違えれば同じです。データは、自社の商材が売れる根拠にはなりません。
3. レポートでは分からず、生の声でしか分からないこと
一方、すでにベトナムで同じような商材を扱っている企業に直接話を聞くと、数分で核心に触れられます。
実際に聞けるのは、こういった内容です。
- 想定していた価格で本当に売れているのか
- 顧客はどこで、どうやって見つけたのか
- 回収条件はどうなっているか、支払い遅延はあるか
- 進出してから黒字化までに何年かかったか
- 今から入るなら、やめた方がいい部分はどこか
これらはレポートには書かれません。書けないというより、実際に売っている人しか持っていない情報です。
特に「今から入るならどうするか」という質問は効果的です。すでに現地にいる人は、自分が通った失敗を具体的に覚えているので、抽象論ではない答えが返ってきます。
4. なぜ1社ではなく、5社から10社なのか
ここが重要な点です。1社だけに聞いても、判断材料にはなりません。
その1社がうまくいっていれば「いける市場だ」と感じ、苦戦していれば「厳しい市場だ」と感じます。ただ、それはその会社の商材、タイミング、経営体制の結果であって、市場の評価ではありません。1社の話は、その会社の話です。
これが5社になると、共通して出てくる話と、その会社固有の話が分かれてきます。
- 全社が同じことを言う → 市場の構造的な特徴(前提として受け入れる必要がある)
- 1社だけが言う → その会社の事情(自社には当てはまらない可能性がある)
10社まで聞ければ、価格帯の相場観、顧客層の傾向、立ち上がりに必要な期間について、かなり具体的な輪郭が見えてきます。進出判断に必要な精度としては、これで十分に足ります。
逆に言えば、10社に聞いても判断がつかない商材は、まだ進出のタイミングではないというサインかもしれません。
5. 会社は作るより畳む方がはるかに大変
進出判断を慎重にすべき最大の理由がこれです。
ベトナムでの法人設立は、条件が整っていれば比較的スムーズに進みます。一方、撤退や清算は、設立とは比較にならない手間がかかります。税務調査を受け、債務を整理し、従業員との労働契約を処理し、各種登録を抹消していく必要があり、完了までに1年以上かかるケースも珍しくありません。
その間も、事務所の維持費、会計事務所への費用、担当者の時間は発生し続けます。
つまり、「とりあえず作って、ダメなら畳もう」という発想がベトナムでは成立しにくいということです。だからこそ、法人を作る前の段階で、どれだけ情報を集めておくかが決定的に重要になります。
進出前に10社回る手間と、判断を誤って清算する手間を比べれば、どちらが軽いかは明らかです。
6. 「10社アポ」をどう取るか
ここまで読んで、多くの方が思うはずです。「その10社のアポイントを、どうやって取るのか」と。
これが実際、最大の壁です。
日本から飛び込みで連絡しても、同業他社が自社の実情を話してくれるとは限りません。代表番号に電話をしても、最初に対応するのは現地のベトナム人スタッフで、日本人の責任者まで取り次がれないことも多くあります。出張の日程に合わせて複数社の予定を組むだけでも、相当な調整が必要です。
結果として、せっかく現地に来ても2社訪問しただけで帰国する、というケースが起こります。
このアポイント設定の部分は、現地にネットワークを持つ会社に任せた方が早く済みます。オタスケでも、進出前の企業様向けに、同業や関連業界へのアポイント設定と訪問同行を承っています。
費用面でも、本格的な市場調査や進出コンサルティングに支払う金額より、はるかに抑えた形で実施できます。進出を決める前の段階だからこそ、コストをかけすぎずに判断材料を集めることに意味があります。
まとめ
ベトナムのマクロ指標は力強く、市場としての将来性は疑う余地がありません。ただ、その数字は自社の商材が売れる根拠ではありません。
進出判断に本当に必要なのは、すでに現地で同じような商材を売っている人たちの生の声です。1社では判断できません。5社、できれば10社に聞くことで、市場の構造と自社の勝ち筋が見えてきます。
そして、ベトナムでは法人を畳む方が作るよりはるかに大変です。だからこそ、順番としては市場調査の前に、現地に来て10社回る。これが進出判断でもっとも確実な方法だと考えています。







